ライフワーク

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小学生の頃に聴いていた『所ジョージの足かけ二日大進撃』は、僕の人生を変えたラジオ番組だ。それまでもラジオを聴くのは好きで、小学校でも放送委員会に入ったりしていたが、この番組との出逢いが、僕を「ラジオ屋」へと導くことになった。

 WEB で検索しても出てこないのだが、番組では、毎週オープニング早々に「レコード叩き」というコーナーがあった。リスナーと生電話を繋ぎ、所ジョージさんがマイク越しにレコードのジャケットを叩いて、電話の向こうのリスナーがその曲名を当てるという、それはもう荒唐無稽な企画であったのだが、番組を聴いているとそれなりの確率で正解者が現れる。もちろん選ばれる曲はリリースされたばかりのアイドルや歌謡曲の新譜であることが殆どなので、一定の確率で正解することもあるのだろう。だけど、「ジャケットを叩いて曲名を当てさせる」という発想は、小学生の僕に「ラジオは何をやってもいい可能性に満ち溢れたメディア」と思わせてくれるには充分すぎる企画だった。

 かくして、(途中寄り道をしつつも)1994年にラジオ業界に身を投じ、ここまでやってきた。民放、公共放送、AM、FM、短波、ネットラジオ、Podcast、店内放送……ジャンルや時間帯を問わず、それこそ「ラジオ番組制作」そのものをライフワークとして生きてきた。

 その転換期となったのが、ちょうど5年前の2016年6月。血液がんの一種である「悪性リンパ腫(血管免疫芽球性T細胞リンパ腫)」に罹患し、休職と復職を繰り返す日々。寛解後も合併症(慢性 GVHD)のドライアイと視力低下に悩まされ、2019年からはフリーランスとして、合併症と向き合いながら、ラジオや音声コンテンツにまつわる仕事を再開している。

 この5年間で、何度も「死」と向き合い、「がん」と向き合ってきた。「2人に1人ががんになる時代」と言われて久しいが、自分がその「1人」に選ばれることはないだろうと、漠然とそう思っていたのだ。がんになると、それまでの生活と環境が一変する。今まで見えない壁の向こうにあった「死」がすりガラスの向こうに見えてくる。2016年に最初に罹患したときには、5年生存率は「65%以上」と言われた。2017年に再発したとき、論文をインターネットで調べたら、5年生存率は「20〜50%」と書かれていた。再発してからの「5年」をクリアするまであと1年。まだ「50〜80%」の数字の重みから抜け出せないでいる。寛解したからといって再発する可能性はあるし、「二次がん」という別のがんに罹る可能性も高くなるのだそうだ。

 そんな僕に、ひとつの仕事が舞い込んできた。紹介してくれたのは、元 TOKYO FM のアナウンサー、古賀凉子さん。いよいよ6月18日(金)から、こちらの音声コンテンツがスタートする。

https://withcancer.online

 今こそ「がん=不治の病」という時代ではなくなったが、それでもまだまだがんとの闘いは険しい。自分はがんとどう向き合っていけばいいのか、どうやって闘っていけばいいのか。家族や同僚、友人知人との付き合い方はどう変わるのか。日常生活にはどんな支障が出るのか。社会保障制度やお金の問題はどうなっているのか……。今まで気にしたこともなかった問題が一気に山積みになり、頭の中が真っ白になってしまうのだ。

 この番組では、そんながん患者とその家族や友人などが、どのようにがんと向き合っていけばいいのかを一緒に考えていく。古賀凉子アナウンサーのナビゲートのもと、国立がん研究センター東病院・がん相談支援センターのがん専門相談員・坂本はと恵さんにお話をうかがいながら、がんと闘う患者のみなさんと、そのご家族のためにさまざまな生活情報をお届けしていく音声コンテンツ。これは間違いなく、自分にとっての「ライフワーク」となるだろう。ラジオのプロとして生きてきた27年、そのうちの5年はがんと向き合いながら、死を意識しながらの日々を送ってきた。このふたつの経験を全力で注入し、ひとりでも多くの方の不安な気持ちを支えていきたいと思っている。他人事とは思わずに、一度、お付き合い願えれば幸いである。

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